データと計算方法¶
本レポートの定量評価は、すべて公開された価格データから機械的に算出している。ここでは、対象期間・ベンチマークの取り方・為替換算・各指標の定義・優劣の判定基準・データ品質による除外候補までを、再現可能なかたちで記録する。本編・他の Appendix に現れる価格由来の数値は、すべてこの方法で計算したものであり、その出所は本ページ末尾の脚注に集約する[1]。
数値の丸め方針¶
本レポートに記載する価格由来の数値は、計算結果を次のとおり丸めて表記する。元の計算値は data/quant/results.json に full precision で保存してある。
年率リターン・ボラティリティ・最大ドローダウン・超過リターン: パーセント表示で小数第 1 位まで(例: 16.3%)
シャープレシオ: 小数第 2 位まで(例: 0.80)
相関係数: 小数第 2 位まで(例: 0.24)
丸めは表記のためだけに行い、優劣の判定には full precision の値を用いている。
評価期間¶
評価は 10 年を主軸とし、加えて 5 年・3 年の窓でも同じ指標を算出して頑健性を確認する。各窓の起点・終点は次のとおりで、いずれも 2026 年 5 月 22 日を終端とする。
窓 |
起点 |
終点 |
|---|---|---|
10 年 |
2016-05-26 |
2026-05-22 |
5 年 |
2021-05-25 |
2026-05-22 |
3 年 |
2023-05-25 |
2026-05-22 |
実際に評価に使った営業日数は候補によって異なる。国内上場銘柄(日経225 ETF など)は 10 年窓で 2,459 営業日、米国上場銘柄(VOO・QQQ など)は取引所カレンダーの違いから 2,369 営業日となる。年率換算はこの実営業日数にもとづいて行う(後述)。
ベンチマーク代理¶
日経225 の配当込みトータルリターンの代理として、日経225連動型上場投資信託(1321.T)の調整後終値を用いる。指数そのものの理論値ではなく、実際に東証で売買できる ETF を代理に選んだのは、比較対象となる他の候補も「実際に買える対象」であり、同じ土俵で並べるためである。
この選択には副作用がある。ETF の調整後終値には信託報酬などの経費率ドラグ(おおむね年 0.2% 程度)が織り込まれており、指数の理論トータルリターンよりわずかに低く出る。これはベンチマーク・候補の双方(ETF を用いる候補)に同様に効くため相対比較への影響は限定的だが、絶対水準の読み取りには留意が必要である。本レポートは「買えるもの同士の比較」というリアリズムを優先し、この代理を採用する。
為替換算¶
USD 建ての候補(VOO・QQQ・GLD・USMV など)は、円建ての投資家から見た実際のリターンを評価するため、USD/JPY(JPY=X)の同日レートを掛けて円換算したうえで指標を算出する。これにより、海外資産のリターンには為替変動の影響がそのまま含まれる。評価期間中、USD/JPY は 2016 年の約 111 円から 2026 年の約 159 円へと約 43%(年率およそ 3.6%)円安方向に動いており、円建てで見た USD 資産のリターンはこの円安の影響を強く受けている。
円換算はあくまで「過去にこう動いた」という記録であり、将来の為替は織り込めない。円高方向に巻き戻った場合に各候補がどう評価され直すかという FX 調整後の試算は、本レポートでは行わない(限界として明記する)。円高シナリオでの再評価は読者に委ねる。
指標の定義¶
各候補の日次リターン系列・価格系列から、次の指標を計算する。リスクフリーレートは円のゼロ金利環境を踏まえ 0% を既定とし、年率換算には 1 年あたり 252 営業日を用いる。
年率リターン(CAGR): 終値と始値の比を実営業日数で年率化する。\((P_{\text{end}} / P_{\text{start}})^{252 / n_{\text{days}}} - 1\)
年率ボラティリティ: 日次リターンの標準偏差に \(\sqrt{252}\) を掛ける
シャープレシオ: \((\text{年率リターン} - \text{リスクフリーレート}) / \text{年率ボラティリティ}\)。リスクフリーレートは 0% とする
最大ドローダウン: 期間中の累積価値が、それまでの最高値からどれだけ下落したかの最大幅。\(\min_t (V_t / \max_{s \le t} V_s - 1)\)
対ベンチマーク超過リターン: 候補の年率リターンからベンチマーク(
1321.T)の年率リターンを引いた値対ベンチマーク相関: 候補の日次リターンとベンチマークの日次リターンの相関係数
買い持ち(リバランスなし)¶
すべての候補は 買い持ち(buy-and-hold、リバランスなし) で評価する。期間の起点で一度だけ保有し、その後は売買しない。複数資産からなる配分候補(株60/債40 など)は、起点で各資産に固定ウェイトを配分したあとはリバランスせず、ウェイトは時間とともにドリフトする。リバランスや積立を前提にすると結果が前提に強く依存するため、最も単純で前提の少ない買い持ちに統一した。
リスク調整後の優劣判定(Pareto 基準)¶
シャープレシオだけで順位づけすると、低ボラ・低リターンの候補が機械的に上位に来てしまう。そこで「リスク調整後で日経225を上回る」を、次の Pareto 的な基準で事前に定義する。
ある候補が robust outperformer であるとは、対 1321.T で
(a) シャープレシオが高く、かつ
(b) 最大ドローダウンの悪化が許容幅(3 ポイント以内)にとどまる
という 2 条件を、10 年・5 年・3 年の 3 窓すべてで同時に満たすことをいう。
3 窓のうち一部の窓でのみこの条件を満たす候補は marginal とする。たとえば S&P500(VOO)は 10 年窓で最大ドローダウンが -34.2% とベンチマークの -31.2% より約 3.0 ポイント悪く、許容幅 3 ポイントをわずかに超えるため robust には入らず marginal となる。いずれの窓でも条件を満たさない候補は underperform とする。
この基準は「高リターンだけでは足りない」ことを意図的に課している。たとえば半導体 ETF(SMH)や NVIDIA はシャープレシオが日経225を大きく上回るが、最大ドローダウンが日経225より大幅に悪いため、Pareto 基準では脱落して underperform に分類される。
データ品質による除外候補¶
事前登録したユニバースのうち、価格データの品質または取得可能性の問題で評価から除外した候補がある。捏造や補完は行わず、除外した事実と理由を明示する。
候補 |
分類 |
除外理由 |
|---|---|---|
TOPIX ETF( |
insufficient |
調整後終値に分割調整漏れと見られる不連続があり、リターン系列が信頼できないため除外 |
日経高配当50 ETF( |
insufficient |
同上(分割調整漏れと見られるデータ異常) |
NASDAQ100 ETF( |
insufficient |
同上(分割調整漏れと見られるデータ異常) |
CPOバスケット(等ウェイト) |
insufficient |
構成銘柄の新光電気工業( |
これらの除外により、本来は「円建てで FX を内包した NASDAQ100」(1545.T)や国内ブロード・高配当との直接比較ができなくなった点は、本レポートの限界の一つである。
前向き評価レイヤー(本レポートの主軸)¶
ここまでは既存のヒストリカル評価(data/quant/results.json、yfinance の配当・分割調整済み終値、円換算)の方法であり、本レポートでは踏み台として流用する(候補別評価 ―― 全件開示と客観スコア の既存分類)。以下は、本レポートが主軸に据えたデータ駆動の発見と客観スコアリングの方法である。「発見(recall)」と「選定(precision)」を分け、選定者の予断による恣意的な銘柄選定を排する。
発見 ―― 指数アウトパフォーム・スクリーン¶
quant/discovery.py。過去1年で指数を上回った大型個別株を Stooq 価格から機械的に抽出する。テーマを事前に決め打ちしない。
通貨内比較: 日本株は日経225(
1321.T)、米国株は S&P500(VOO)と同一通貨で比較し、為替交絡を排す。窓: トレイリング1年(終端 2026-05-22)、最低営業日数 200。
フィルタ: 個別株のみ(ETF/REIT/先物/債券を除外)、対指数 超過 +5pp 以上、平均売買代金(終値×出来高)下限以上(日本 ¥3億/米国 $10M)、単日リターン異常ガード(分割調整漏れ等を除外)。超過降順で各市場 top-150。出力
data/quant/outperformers.json。大型フィルタ+強化:
quant/enrich.pyが yfinance.infoで時価総額・セクター・ファンダを付与し、時価総額フロア(日本 ¥1000億/米国 $2B)で大型に絞る(IPO直後・低位株回復のアーティファクトを除外)。キュレーション: 残った大型アウトパフォーマーのうち AI・半導体クラスタを採用し、非AI(地銀・バイオ・鉱山・燃料電池・太陽光・宇宙防衛・暗号資産等)は除外。NVIDIA・TSMC・Broadcom は過去1年のアウトパフォーム上位外のため母集団に含めない(AI計算 ―― 構造的アンカーと、今年の現実 で定性言及)。
スコアカード(データ源)¶
yfinance
.info(取得日 2026-05-25 スナップショット、quant/fundamentals.py、data/quant/fundamentals.json)。取得項目: 時価総額・実績PER・予想PER・PEG・売上/EPS成長・PSR、信頼ソース(コンセンサスレーティング
recommendationMean・目標株価・現値)、クオリティ(ROE・粗利)。欠損の扱い: 取得できない項目は N/A(捏造・補完なし)。
.infoは時点依存で日々変動し、価格系列ほど再現性が高くない。一部の値(例: ADR 換算由来の PSR)は異常値があり単独では参考にしない。
価格データ(Stooq)と配当調整の検証¶
価格データは、ローカルの Stooq バルクアーカイブ(data/raw/d_jp_txt.zip / d_us_txt.zip)を正とする(quant/stooq.py)。実装に先立ち、Stooq の <CLOSE> が配当調整済みかを既存 results.json(yfinance・配当込)と同期間(10年窓)で照合した(work/verify_stooq_dividend.py)。
候補 |
yfinance(配当込TR) |
Stooq |
差 |
|---|---|---|---|
日経225 ETF( |
16.3% |
14.1% |
+2.2pp(≒配当利回り) |
米総合債(AGG) |
5.5% |
0.0% |
+5.4pp(配当+FX) |
金(GLD, 無配当) |
17.8% |
13.5% |
+4.3pp(≒円安寄与) |
FX 交絡のない 1321.T で差が配当利回りに一致することから、Stooq の終値は分割調整済み・配当未調整と判定した。したがって Stooq 由来の系列は通貨内のリスク調整指標(ボラ/シャープ/最大DD/相関)に用い、配当込トータルリターン・絶対リターンの基準は既存 results.json(円換算)を正とする。クリーンな USD/JPY スポットはアーカイブに無いため、前向きスコアカード(比率指標で FX 不要)以外で円換算が必要な比較は限界として明示する。
ハードフィルタ(リスクゲート)¶
quant/scorecard.py。スコアリングの母集団から次を除外し、理由を明示する(フォールバックせず例外を理由化)。
データ不足: 成長 or バリュエーションが欠損で評価不能。
金利感応度ゲート: 予想PER 60 超 × 売上成長 10% 未満。高PER×低成長は金利上昇に最も弱いため。
客観複合スコア(恣意的選定の排除)¶
quant/scoring.py。母集団を6つの factor で評価し、特定銘柄を恣意的に選ばず、順位をスコアで決める。
factor |
中身(欠損時フォールバック) |
区分 |
|---|---|---|
リターン実績 |
1年 対指数 超過リターン(discovery 由来) |
実績 |
成長 |
売上成長(欠損時 EPS 成長 YoY) |
ファンダ |
バリュエーション |
予想PER(欠損時 実績PER)=低いほど高評価 |
ファンダ/金利環境 |
アナリスト評価 |
コンセンサスレーティング(1=strong buy ほど高評価) |
信頼ソース |
アナリスト上値余地 |
目標株価/現値 − 1 |
信頼ソース |
クオリティ |
ROE |
ファンダ |
各 factor をユニバース内 percentile(0〜1、高いほど良い)に変換し、等重平均で複合スコアとする。percentile 化で factor 間の単位・外れ値を吸収し、単一指標(PEG 等)が循環ピーク銘柄に支配される pathology を避ける。
欠損の扱い: factor 単位でフォールバック後も無ければその factor を分母から除く。6 factor 中 4 未満しか揃わない銘柄は insufficient として除外(0.5 で埋めない)。
重みは設計上の選択だが、固定・一律適用であり、銘柄ごとの上書き(「特定銘柄を入れる」)はしない。
マーケット環境は (1) リターン実績と (3) バリュエーション(金利感応度の逆)に内包。信頼ソースは (4)(5) のアナリスト・コンセンサスで操作化した(客観・再現可能)。
3表: 同一スコアを日米統合ユニバースで算出し、日米/日本株/米国株の3ビューに切る(スコアは全体相対)。
感応度: 6 factor を1つずつ除いて top-3 を再計算する leave-one-out を実装し、結果が weights に支配されないことを示す(候補別評価 ―― 全件開示と客観スコア)。
分散は強制しない: 純客観スコアの順位をそのまま用いる。分散が必要なら「1サブテーマ最大N社」等の明示ルールを併用する(恣意的ピックではなくルール)。
定性情報の扱い(スコア外)¶
顧客集中・モート・採用時期などの定性情報は、再現性を保つため客観スコアには含めず、本文の補足とする。顧客集中は IR 一次情報(米=10-K、日=有価証券報告書)で確認し、代表例として Coherent の開示(2025 会計年度に売上10%超の顧客が2社。出典: Coherent 2025 Annual Report https://www.coherent.com/content/dam/coherent/site/en/documents/investors/annual-filings/2025/coherent-annual-report-2025.pdf)を NVIDIA Rubin と CPO(光電融合 / Co-Packaged Optics)投資調査レポート で用いる。未取得は N/A とし推測で埋めない。